元予備校講師、木彫りグマのブログ

元予備校講師の木彫りグマが、主に歴史・地理・社会経済、古典などについて書くブログ

地獄や蛇、キツネなど様々なジャンルの説話を集め、平安初期に成立した『日本霊異記』について、元予備校講師がわかりやすく解説

こんにちは。木彫りグマです。

 

木彫りグマは何年か前まで予備校で講師をしておりました。

その時に教えていたのが社会系と小論文、そして古典です。

古典というと、どうしても読みにくく、わかりにくいというイメージが先行しますが、しっかりと現代語訳されたものを読むと現代人が読んでも面白いと思える内容の物がたくさんあります。

 

今回紹介するのは説話文学というジャンルに属する『日本霊異記』。

平安初期に書かれた最古の説話文学ですね。成立代ははっきりしませんが、蛇の話、狐の話、地獄の話、鬼の話など様々な短編物語が116話収録された文学作品でした。

 

今回は、『日本霊異記』とはどのような本か、『日本霊異記』に収録されている個人的に面白いと思った話などを紹介したいと思います。

 

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日本霊異記』とは何か

 

成立年代や著者、構成について

 

日本霊異記』は、正式名称を『日本国現報善悪霊異記』といいます。

日本国に今に伝わる良いことや悪いことの報いなどの不思議な話を集めた本という意味のタイトルですね。

 

成立年代は正確にはわかっていませんが、822年の前後とされます。

822年というと、嵯峨天皇の時代で、最澄が亡くなった年。

空海はまだ健在で、真言密教の研究を続けていたころです。

 

著者は奈良右京にあった薬師寺の僧侶である景戒。『日本霊異記』の中で、景戒は俗世で妻子とともに暮らしていたとあるので、国が認めた僧侶ではなく、自分で出家する私度僧だった可能性が高いでしょう。

 

日本霊異記』は全三巻で構成されます。上巻に35話、中巻に42話、下巻に39話で収録話数は合計116話。

短編集とはいえかなりのボリュームですね。登場人物は皇族・貴族といった高貴な人々から役人、僧侶、庶民、乞食僧などあらゆる階層に及びます。

 

日本霊異記』を含む説話文学とは

 

日本霊異記』は説話文学というジャンルに区分される作品です。

説話文学とは、神話・伝説・民話・童話などを収録した文学作品の総称です。

大きくけると、仏教説話と世俗説話に2分されますよ。

日本霊異記』は仏教説話に区分されます。

 

仏教説話は仏や菩薩の奇跡、高僧に関するエピソード、世の中の因果応報などについてまとめたもの。

日本霊異記』のほかに『今昔物語集』や『発心集』、『沙石集』などが該当します。

 

悟りを得ようと仏の道を志す発心の話や俗世のわずらわしさを逃れ静かに生活する遁世、この世を去って極楽に生まれ変わる往生、仏や仏教・経典の霊力によっておこる不思議な出来事などが収録されます。

 

日本霊異記』に収録されている説話の主題と思想

 

日本霊異記』に収録されている話に共通するテーマは因果応報。

善悪は必ず報いをもたらし、自分が行った善行や悪行は現世・来世・地獄などで自分の身に降りかかるという内容の話が多く収録されました。

 

善行には貧者に対する施しや生き物を憐み放つ放生、写経や仏に対する信心が含まれます。

悪行には殺人、窃盗、動物に対する殺生、僧に対する紀がいや侮辱などが含まれます。

 

 

日本霊異記』の説話3選

 「狐を妻として子をうましめし縁」

時代は飛鳥時代欽明天皇のころ。現在の岐阜県にあたる美濃国大野郡の男が妻となる女性を探していました。

ある時、男は一人の美しい女性と出会います。

女性の美しさに惹かれた男は女に妻となるよう誘います。

すると、女は男の誘いに応じて男の妻となりました。

 

やがて、男は妻との間に一人の男の子を授かります。

妻には一つだけ気になることがありました。

家で飼っていた犬の子が、妻を見るとやたらに吠え立てるのです。

妻は犬が恐ろしく「殺してほしい」と夫に頼みますが、夫は犬がかわいそうで殺すことができませんでした。

 

あるとき、妻が納屋に入ると、犬の子が妻に襲い掛かりかみつこうとします。

慌てた妻はついに正体を現してしまいました。

なんと、妻は人ではなく「きつね」だったのです。

正体がばれてしまった妻に対し、夫はそれでも夜には来て一緒に寝てほしいと頼みました。

 

妻はそれを承知し、夫の下に「来つ寝」(きつね)したといいます。

狐との間に生まれた子が、美濃国に住む狐直の先祖となりました。

 

 

「亀の命を贖ひて放生し、現報を得て亀に助けらえし縁」

朝鮮半島にあった百済生まれの弘済禅師という僧侶がいました。

唐と新羅百済に攻め込んだ時、援軍として派遣された備後国(現在の岡山県)の三谷郡の郡長の先祖が、戦いに勝利し弘済禅師を伴って帰国します。

 

三谷郡の郡長の先祖は、戦いの前に無事に帰ってきたら立派なお寺を立てますと請願していたので、弘済禅師を住職とする寺を立てようとします。

 

弘済禅師は仏像に塗る顔料を買うため難波津(大阪の港)に赴き、目的の品を購入。

この時、禅師は亀が4匹売られているのを見て哀れに思い、亀を買い取り海に放してあげました。

 

難波からの帰路、禅師の乗った船の船乗りは禅師や連れの同時を海に投げ込み、品物を奪います。

海に投げられ絶体絶命だった禅師一行は、亀に助けられました。

その亀は、禅師が難波津で買い取った亀たちだったのです。

 

一方、顔料などを奪った船乗りは、禅師の寺に奪った品物を売りに行きました。

そうしたら、なんと、禅師が生きて姿を現したではありませんか。

船乗りたちは驚いて何も言えなくなります。

 

禅師は、船乗りたちを許しました。禅師は顔料を取り戻し、寺もしっかりとたて80歳まで生きます。

善い行いが現世で報われたとして紹介されました。

 

「非理に他の物を奪ひ、悪行を為し、報を受けし奇しき事を示しし縁」

 

奈良時代文武天皇の時代(705年)、9月15日に膳臣広国という人物が死去しました。その三日後、広国は蘇生し、地獄で見た責め苦について人々に語ります。

 

死んだ広国は大人と子供の二人の従者に連れられ、黄金の橋を渡りました。橋の向こうには見たこともない素晴らしい都で、都の中に黄金の宮殿があります。従者に尋ねると、「度南の国」というを教えてくれました。

 

度南の王の前に来ると、昔に死んだ広国の妻が現れます。妻は額に鉄の釘を打たれ、頭から尻まで太い釘を打ち込まれた姿でした。妻は広国に「私は、お前に追い出されて死んだのだ」と主張します。広国はそんな事実はないと反論しました。

 

すると、度南の王は広国の所業を記した記録を手元に取り寄せ、つぶさに調べます。その結果、広国は無罪であると判定されました。広国は生き返ることを許されます。

 

この世に戻る途中、広国は父親の姿を見ました。父親は体に37本の釘を打たれ、焼けた銅の柱を抱かされています。広国の父は、鬼によって肉がちぎれ落ちるほど鞭打たれました。しかし、鬼は肉をかき集めて広国の父の体を再生。再び責め苦を加えます。

 

広国の父が犯した罪は、生活のために動物を殺し、高値で人にものを売りつけ、困っている人に米を貸して利子を取り、親孝行せず、人の物を奪い、人の妻を犯したということでした。

 

広国をエスコートした従者のうち、子供の従者は広国が子供のころに書き写した観世音経の化身。幼いころの善行が広国を救ったというお話でした。

 

さいごに

 

あまりなじみのない『日本霊異記』ですが、読み物としてとても面白いエピソードがたくさんあります。最近、『日本霊異記』の内容をマンガにした本を見つけました。読んでみると、なかなか興味深い。関心を持った方は、ぜひ、一度手に取ってみてはいかがでしょうか。面倒な古文でも、マンガなら気軽に読めるのでお勧めです。

 

最後まで読んだ頂き、ありがとうございました。

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