「ペストの様子を描いた『死の勝利』ってどんな絵?」
「フランス革命前の様子を描いた風刺画とは?」
この記事をご覧の方は、こんなことを知りたいのではないでしょうか。
社会や世相を描いた絵のことを風刺画といいます。
ペストという死を身近にさせた恐ろしい伝染病やフランス革命前の不公平な社会、幕府による息苦しい弾圧さえ、人々は絵にしてしまいました。
2020年にアメリカでおきたジョージ・フロイドさんの死に対し、覆面アーティストとして有名なバンクシーは、黒人男性と思われる遺影のような写真と、上部に飾られた星条旗、その星条旗にロウソクの火が燃え移る様子を描いた新作を発表し、社会に何かを訴えかけます。
暗いタッチで描かれたバンクシーの絵は、見るものにアメリカが抱える黒人問題の深刻さを訴えているように感じました。
今回は、絵画や風刺画がもつ伝える力について考えてみます。
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ブリューゲル作「死の勝利」
新型コロナウイルスが流行した時、カミュの『ペスト』の売り上げが伸びたといいます。
ペストは黒死病とも呼ばれる恐ろしい感染症で、14世紀中ごろのヨーロッパでもっとも猛威を振るいました。
世の中にいるありとあらゆる人が、老いも若きも貴賤問わずペストの餌食となります。
死を身近に感じた人々は「死を記憶せよ!(メメント・モリ)」と口々にいいました。
ペストの猛威の前では、立派な甲冑を着て王冠をかぶる王といえども無力です。
その一方で、死の間際まで「快楽」を忘れられない人々は骸骨が暴れまわっていてもなお、テーブルでトランプをしようとしています。
人間の本質に対する皮肉も読み取れるような気がしませんか?
フランスのアンシャンレジーム
18世紀後半、フランスは国王を頂点として一握りの聖職者や貴族が国を支配する旧制度(アンシャン・レジーム)の時代でした。
年老いた鍬を持った男が、貴族や聖職者といった特権階級を背負っている様子を描いた絵ですね。
どこからどう見ても、不公平かつ不合理な身分制度であることが一目でわかります。
こうした古い仕組みはフランス革命によって破壊されました。
セリフもなく、一文字の解説がなくても、絵の示すことがすぐにわかるというのは風刺画の長所ではないでしょうか。
国芳作「源頼光公館土蜘作妖怪図」
江戸時代、政治を庶民が批判するのはご法度でした。
そんな中、江戸の庶民たちが憂さを晴らしたのが浮世絵です。
江戸時代の三大改革の一つである天保の改革は、ひときわ厳しい改革として知られます。
改革の責任者である水野忠邦は、人々の贅沢を徹底的に禁じ、浮世絵や読み本といった娯楽まで統制します。
浮世絵師歌川国芳は、表向きは平安時代の武将源頼光の土蜘蛛退治を題材としつつも、その実は水野忠邦の天保の改革を批判するという非常にリスクのある作品を描きました。
土蜘蛛が作り出す妖怪に頭を悩ます右上の源頼光は、時の将軍徳川家慶。
一方、家来たちは主君の苦悩をよそに見て見ぬふりをしてそれぞれ自分のことをしています。
もし、これがばれると良くて財産没収、悪くすれば遠島や死罪になりかねません。
娯楽にまで手を出してくる水野に対し、国芳は相当腹に据えかねるものがあったのでしょうね。
さて、国芳の絵をモチーフにしたいろいろな作品は今でもたくさん作られています。
さいごに
絵画は、時に文字よりも雄弁に語ります。
バンクシーの絵もそうですが、国芳のガシャドクロは、ひそかに織り込まれた幕政批判でした。
絵の持つ力はすごいものがあると思います。