絵仏師良秀 宇治拾遺物語で描かれた狂気の「あさましき」絵師

こんにちは。木彫りグマです。

2019年が始まって早10日。松の内もすぎ、どんとと焼きも終わって平穏な、いつもの日常が始まりましたね。

ニュースでどんと焼きの炎を見ながら、ふと、以前に教えていた教材の「絵仏師良秀(りょうしゅう)の説話を思い出しました。今日のテーマは狂画師といってもよい彼を取り上げます。

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『宇治遺物語』とは

宇治拾遺物語鎌倉時代初期に書かれたとされる説話集です。題材が鎌倉よりも前の平安時代のものが多いせいか、平安時代に書かれたと勘違いされがちです。受験生の皆さん、宇治拾遺は平安時代ではありませんからね(笑)

 

今昔物語集』と同じ話が含まれていることから、共通する要素もたくさんありますよ。内容は仏教に関する物語が多いのですが、貴族階級から庶民に至るまでたくさんの人々が登場します。わらしべ長者「こぶとり爺さん」など私たちにもなじみ深い物語が多数収録されていますよ。

 

「絵仏師秀」のあらすじ

絵仏師とは、僧侶でありながら仏教に関する絵画などを描いた専門職。良秀もそうした絵仏師の一人でした。

 

ある時、良秀の家の隣が火事になります。火が迫ってきたので良秀は逃げ出して大通に出ました。中には家族や依頼されて制作中の作品が残っていたのですが、外に出た良秀は慌てる様子もなく、ただ、燃え盛るわが家を見ています。

 

「大変なことですね」と人々が見舞いますが良秀は動じません。

それどころか、良秀は燃え盛るわが家を見て時々笑っているではありませんか。

 

そして、良秀は「これはありがたいことだ。今まで、私はなんと炎を下手に書いてきたのであろうか」というのです。

 

「どうしたのですか、何で何もせず立って(笑って)見ているのですか。何か悪霊にでもとりつかれたのですか?」と見舞った人が言うと。

 

良秀「悪霊なんかついていない。今まで不動明王の炎をへたくそに書いてきた。いま本物の炎を見て、こんな風に燃えているのだと納得した。絵画の道で生きていくなら仏様さえ描ければ何千もの家を建てることさえできる。あなた方こそ、さほど才能がないのだから今のものを大事にするといい」と。

 

その後、良秀の描いた不動明王はたいそう評判になり「よぢり不動」として人々に愛されたという。

 

不動王について

不動明王は仏教を守護する明王の一人。主に密教で信仰され、日本各地に不動明王をまつる寺や祠がつくられました。

 

大日如来が人々を教え諭そうとしますが、大日如来のことを「なめて」教えを受け入れない者たちを教化するため炎を背負った姿で現れます。だから、不動明王のバックは燃え盛る炎なのです。

 

不動明王を描いた傑作として、園城寺の「黄不動」、和歌山明王院の「赤不動」、青蓮院の「青不動」などが有名です。

 

良秀は、きっとリアルな、すべてを焼き尽くす猛火をこそ描きたかったのでしょうね。

 

 

あさまし」について

この話は良秀の異常性を物語ると同時に、何かに没頭して「狂う」ことの妙を示している気がします。

 

よく、テストに出題される多義語の「あさまし」は古語辞典でひくとたくさんの意味があって、受験生を悩ませます。現代語では「品性がない、卑しい」といった意味で使うことが多いのですが、これは江戸時代以降の用法だといいます。

 

古語には、良い意味でも悪い意味でも使う言葉がよく出ます。「あさまし」の場合は驚きあきれるが基本ですが、良い意味でも、悪い意味でも驚きあきれるのです。今でいうなら「すごい」と似ているかもしれません。「すごい」もよい意味でも悪い意味でも使うことができますよね。

 

良秀の行動は明らかに褒められたものではありません。本文には家族の安否は描かれていませんが、家族を見殺しにしたといってもよい彼の行動は異常そのものでしょう。しかし、その狂気の中から生まれた「よぢり不動」は傑作として人々の喝さいを浴びました

 

画家の気に魅せられた芥川龍之介

 

芥川龍之介は古典作品をリメイクすることに長けていた小説家だと思います。彼が説話から取り出した作品は、『羅生門』や『鼻』、『蜘蛛の糸』が有名ですが、絵仏師良秀を原点とする地獄変も有名です。

 

こちらは、画家の狂気にに加えて原典ではあまり触れられていない家族にスポットがあてられ、より生々しい物語となっています。炎で焼かれる実の娘を恍惚として描く絵師。絵の感性とともに首をつってしまうところなどは大きく異なる芥川のオリジナリティでしょう。

 

炎には人の心を狂わせる何かがあるのかもしれませんね。

 

最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

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