「砂漠」という言葉から、皆さんはどのようなイメージを持つでしょうか。
おそらく、砂だらけで水が少なく植物が生えない場所と答える方が多いと思います。
しかし、一口に砂漠といっても様々な種類があり、土の質や砂漠のでき方は実に様々です。
今回は砂漠の違いやでき方、砂漠と砂漠化の違い、砂漠の生み出した芸術品ともいえる「砂漠のバラ」について解説します。
砂漠とは
砂漠とは乾燥帯に見られる地形の一つで降水量が極端に少ないため岩石や礫(れき)、砂などからなる場所のことです。
砂漠といえば「砂」の印象がとても強いですが、砂が占める砂漠は全体の20%にすぎません。
ここでは、土の質やでき方に着目した以下の4つの砂漠の種類を紹介します。
- 砂砂漠
- 土砂漠
- 礫砂漠
- 岩石砂漠
詳しく見てみましょう。
砂漠の種類① 土の質による違い
砂漠の土は「砂砂漠」「土砂漠」「礫砂漠」「岩石砂漠」の4種類に区分できます。
それぞれの特徴を見てみましょう。
砂砂漠
砂砂漠とは、岩石砂漠の周辺に分布する砂でできた砂漠です。
砂とは2mm以下の粒のことで、かなり細かな粒子です。
私たちが普段イメージする砂丘は砂砂漠でよくみられる地形の一つですが、砂丘は風が吹く方向によって形がかなり変化します。
風上側にゆるい斜面を形成する砂丘をバルハン、風によって馬の蹄のような形でえぐられて風下側に形成される砂丘をマンハといます。
受験的には、バルハン・マンハと出てきたら砂丘の地形だと認識すればよいでしょう。
土砂漠(土漠)
土砂漠とは、土や粘土に覆われた砂漠のことです。
土や粘土ばかりの砂漠であるため、砂砂漠に比べると荒地感が強い外観となります。
土砂漠の土壌は植物がほとんど生育していないため植物が育つ栄養となる腐植が極端に少なく、塩分が強いという特徴があります。
土の中の塩分が強くなると、植物は地中から水分を吸収できなくなるばかりか、自分の体の中にある水分が土の中に流出するため、やがて枯れてしまいます。
そのため、塩分が多い土砂漠の土壌を緑化するのはかなりの努力が必要です。
礫(れき)砂漠
岩石砂漠のうち、礫とよばれる粒が比較的大きい土でおおわれた砂漠を礫砂漠といいます。
礫は粘土や砂よりも粒子が大きい岩石の破片(2mm以上)と考えるとよいでしょう。
もともとは岩石砂漠にあった硬い岩盤(基盤岩)の一部でしたが、風化によって砕かれ、風や流水で礫より小さな砂が流されてしまった結果、礫が残されました。
砂砂漠として有名なサハラ砂漠ですが、砂砂漠が占める割合は全体の2~3割に過ぎず、残りの7割強は礫砂漠です。
岩石砂漠
岩石砂漠とは、風化が進んだことで基盤岩が露出した砂漠のことです。
砂や礫は風雨で流されて岩がむき出しとなっているのが特徴です。
独特の地形として「メサ」や「ピュート」があります。
どちらもテーブル状の地形ですが、頂上部分が広く規模が大きいものをメサ、小規模なものをピュートとよびます。
メサやピュートはアメリカにあるモニュメントヴァレーで見られます。
砂漠の種類② でき方別による違い
砂漠はできかたによっても区分できます。
今回紹介するのは以下の4つのタイプです。
- 回帰線砂漠(亜熱帯砂漠)
- 内陸砂漠
- 海岸砂漠
- 雨陰砂漠
上記の4つの砂漠は、雲をつくる上昇気流が発生しにくい場所にできます。
詳しく見てみましょう。
回帰線砂漠
回帰線とは、北緯23度26分・南緯23度26分を通る緯線のことで、北緯側を北回帰線、南緯側を南回帰線といいます。
回帰線の周辺は熱帯付近で上昇した空気が冷やされて下降する場所にあるため、常に下降気流にさらされています。
雲は上昇気流のある所でできるため、下降気流が強い回帰線付近で発生しにくいため雲ができず雨がほとんど降りません。
そのため、北回帰線・南回帰線の付近は大きな砂漠になりやすいのです。
熱帯の近くで発生する砂漠のため、亜熱帯砂漠ともいいます。
したがって、回帰線砂漠も亜熱帯砂漠も同じものと考えてよいでしょう。
主な回帰線砂漠は、北半球のサハラ砂漠(アフリカ)、南半球のグレートサンディー砂漠(オーストラリア)、カラハリ砂漠(アフリカ)です。
内陸砂漠
大陸の中心部に位置する場所は海岸から遠く離れていたり、山脈などで海岸からの風を阻まれたりするため砂漠になりやすい地域です。
ユーラシア大陸の中央部に位置するゴビ砂漠やタクラマカン砂漠、カラクーム(カラクム)砂漠は、海から遠く離れているだけではなく、周辺に高い山脈があるため雨雲がたどりつくことができないため砂漠となります。
海岸砂漠
基本的に海岸付近は雨雲が到達しやすいため雨が降りやすいのですが、寒流が海岸付近を流れている場所では海岸砂漠が発生します。
寒流が流れている場所の付近は空気が冷やされて重くなります。
重い空気は下にとどまり続けるため上昇気流が発生せず、雲ができないため雨が降らず砂漠となります。
しかし、海岸から陸地に吹く風は水分を多く含んでいるため、霧が発生します。
この霧の発生こそ、他の砂漠と異なる海岸砂漠の特徴といえます。
主な海岸砂漠は南米のアタカマ砂漠、アフリカのナミブ砂漠です。
雨陰砂漠
雨陰砂漠は山脈の風下側にできる砂漠のことです。
海岸の湿度を多く含む風が山にぶつかり、強制的に上昇気流となって山の風上側に雨を降らせます。
すると、湿った風は湿度を失って乾いた風になり風下側に吹付けます。
乾燥した乾いた風にさらされる地域は砂漠になるのです。
代表的な雨陰砂漠は南米のパタゴニア地方です。
偏西風がアンデス山脈にぶつかり、太平洋側(チリ側)に雨を降らせます。
一方、雨を降らせた後の乾いた風は下降気流となり風下の大西洋側(アルゼンチン・パタゴニア地方)に吹付けます。
偏西風はいつも同じ方向に吹くため、雨が降る場所と乾燥する場所が固定化して風下側の地域が砂漠になるのです。
砂漠と砂漠化は何が違う?
砂漠と砂漠化は乾燥した場所を指す言葉ではありますが、その意味は似て非なるものです。
砂漠とは、以前から植物が生えていなくて人も住むのが難しい土地のことです。
一方、砂漠化はもともとは植物が生えていた場所でしたが、砂漠になってしまうことです。
引用元:環境省自然環境局自然環境計画課「人々の暮らしと砂漠化対処」
砂漠(極乾燥地域)の周辺にある乾燥地域や半乾燥地域は、干ばつなどが起きるといつ砂漠化する可能性があります。
砂漠化が特に深刻だといわれているのが、アフリカのサハラ砂漠周辺にあるサヘル地域です。
1960年代以降、干ばつが発生したことにより急速に砂漠化が進行しています。
砂漠化は干ばつのような自然的な要因だけではなく、人為的な要因によっても進行します。
人為的な砂漠化の主な原因は以下のとおりです。
- 過耕作
- 過放牧
- 薪炭材確保のための樹木伐採
過耕作とは農業のし過ぎのことです。
乾燥地帯では水が不足するため地下から水をくみ上げたり、周辺の河川から水を引いたりする灌漑農業を行います。
しかし、灌漑農業をしすぎると土の中の塩分が地表にたまり、植物が生えにくい土地になるのです。
こうした被害を塩害といいます。
塩害以外にも、収穫後の農地を適切に管理しないことで土壌が風雨で浸食されて砂漠化するケースもあります。
過放牧とは、ヤギや羊などの家畜を飼育しすぎることです。
数が増えすぎた家畜が、草木の葉だけではなく根まで食べつくすと翌年に草が生えず、砂漠化が進行してしまいます。
人口の増加による薪炭材の確保も砂漠化の原因となります。
過耕作も過放牧も人口の増加の影響であることを考えると、地域の人口が増えすぎることで砂漠化が起きるとも考えられます。
砂漠で農業はできる?
砂漠地帯でも農業は可能です。
乾燥地帯には3カ月程度の短い雨季があるステップ気候と、年間降水量250mm以下の砂漠気候がありますが、ここでは砂漠気候の農業をとりあげます。
乾燥地帯では、オアシス農業や乾燥農法が行われています。
オアシス農業
オアシス農業とは、乾燥地帯の中で水が湧き出る場所(オアシス)を中心に行われる農業です。
河川や湧き水、地下水などを利用して農業を行います。
乾燥地帯では地表にある水は蒸発しやすいため、地下に水路を掘ってオアシスまで水を運びます。
地下水路の名前は地域によって異なっています。
灌漑農業の作物は大麦・小麦などの穀類やナツメヤシ、綿花、サトウキビなどです。
ナツメヤシはその名の通りヤシ科の植物で、果実は「デーツ」という名前で売られています。
日本でも、輸入雑貨を多く扱う店を中心にドライフルーツやお菓子として販売されています。
黒糖や干し柿に似た甘みがあり、食物繊維やカリウムが豊富です。
健康に良いとされているプルーンやレーズンよりも食物繊維やカリウム、マグネシウムが豊富な果実です。
そこに目を付けたのがお好み焼きソースで有名なオタフクです。
意外と知られていませんが、デーツはオタフクのお好み焼きソースの原料としても使用されています。
オタフクではデーツ関連の商品も開発していますので、興味がある方は公式サイトをご覧ください。
参考:オタフク 「「デーツ」は栄養価の高いドライフルーツ」
乾燥農法(ドライファーミング)
乾燥地帯で灌漑に頼らず天水(雨水のこと)だけに頼る農業を乾燥農法といいます。
不安定な降水量に対応するため、農耕を行っているときは浅く耕して水分の蒸発を防ぎ、作物を栽培していない休耕時には深く耕して雨水を地中深くまでしみ込ませます。
都市からの距離が遠く、灌漑設備を整えるのが難しい地域で行われる粗放的な農業と考えればよいでしょう。
※粗放的な農業
農地に手間やお金をかけない農業のこと。
灌漑設備を設けるといった資本の投入をあまり行わず、少人数で行う農業であるため農業生産能力あまり高くない。
砂漠で千年以上生きる「奇想天外」
砂漠には独特の生態系が広がっているため、私たちの想像を超える生き物が存在しています。
今回紹介する「奇想天外(キソウテンガイ)」もその一つです。
キソウテンガイは学名をWelwitschia mirabilis(ウェルウィッチア ミラビリス)といい、キソウテンガイ科(ウェルウィッチア科)のただ一つの植物です。
裸子植物の一種で、アフリカのナミブ砂漠にだけ生息しています。
キソウテンガイは発芽すると2枚の子葉を出し、その後に2枚の本葉を形成します。
この2枚の葉だけを延々と伸ばし続けますが、葉の先が枯れていくため正確な寿命はわかっていません。
葉の生きている部分が2.5メートルに達する個体も存在します。
ナミブ砂漠は、海岸付近を流れる寒流のベンゲラ海流が作り出した海岸砂漠であるため霧が発生します。
キソウテンガイはこの霧から水分を摂取しています。
しかし、霧の水分だけでは不十分であるため、根から1日1リットル近くの水を吸い上げています。
キソウテンガイの生えている場所を分析すると、数十年に一度の雨のときに川になる場所の近くに生えています。
地下から水分が得やすい場所に生えているのです。
参考:植物発生進化学「キソウテンガイ 奇想天外 Welwitschia | 植物発生進化学:読む植物図鑑 Plant Development and Evolution」
砂漠のバラって何?
砂漠のバラとよばれるものには、鉱物の結晶と植物の2種類が有ります。
それぞれについて紹介します。
鉱物の砂漠のバラ
鉱物の砂漠のバラには、透明石膏(硫酸カルシウム)でできたものと、重晶石(硫酸バリウム)でできたものの2種類が有ります。
どちらの場合も、自然現象で鉱物がバラの形のように結晶となったものです。
両者とも面白い形であるため、標本や置物として人気が高く、数千円前後で販売されています。
ECサイトなどでもパワーストーンの一種として販売されていることがあるので、目にしたことがあるかもしれません。
植物の砂漠のバラ
もう一つは、砂漠を含む乾燥地帯に分布しているアデニウムと呼ばれる植物です。
アデニウムの花がバラに似ていることから、砂漠のバラと呼ばれることがあるのです。
アデニウムは風通しが良く日光がたくさん当たる場所での栽培に向いています。
屋外で6時間、日光が当たる場所に置いておくと美しい形を保ちやすいとされます。
乾燥地帯の花ですが、雨に弱いわけではないので外に置いておいても大丈夫です。
しかし、寒さに弱い植物であるため冬は室内で管理したほうがよいでしょう。
まとめ
今回は砂漠のでき方や砂漠の種類、砂漠で育つ珍しい植物、砂漠のバラなどについて解説しました。
温暖・湿潤な気候の日本では、乾燥した場所は海岸の砂丘などごく一部に限られます。
それだけに、砂漠ならではの風景にあこがれを持つ人も少なくありません。
この記事で、砂漠について少しでも興味を持ってくれると幸いです。