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百人一首の名歌「しのぶれど」。意味や作者、天徳内裏歌合での対決とは?

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しのぶれど 色に出でにけり 我が恋は ものや思ふと 人の問ふまで

 

この歌はどういう意味だろう?

この歌と、恋すてふ の歌とのかかわりは?

しのぶれど という名のバラがあるって本当?

 

このページに来てくれた方は、そんな疑問を持っているかもしれません。

 

「しのぶれど」の歌は『拾遺和歌集』や『百人一首』に収められた名歌です。

 

歌の出来が素晴らしく、この歌が披露された歌会でもう一つの名歌と優劣を競ったエピソードをもちます。

 

今回は「しのぶれど」の歌の作者や歌の意味、「恋すてふ」の歌と競い合った天徳内裏歌合、「しのぶれど」の歌が登場する『名探偵コナン』や『ちはやふる』など現代の作品、「しのぶれど」という名のバラについてまとめます。

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しのぶれど 色に出でにけり 我が恋は ものや思ふと 人の問ふまで

 「しのぶれど」の歌の意味

 

まず、「しのぶ」は我慢する、こらえるといった意味です。「しのぶれど」で、我慢していたけれどといった意味になります。

 

次に「色」は、表情や感情といった意味です。末尾に詠嘆の「けり」がついていることから、「顔に気持ちがでてしまったのだなぁ」という意味になります。

 

では、「色」に出てしまったのは何か?それは、「我が恋」、自分の恋心です。しかも、「ものや思ふ」、何か(誰か)を思っているのですか?と「人の問」、周りの人に問われてしまうほどまで。

 

もうこうなると、恋心がバレバレで他人に見えて、しかも聞かれてしまっているということになります。

 

まとめると、我慢してきた恋心でしたが、顔に出てしまっていたのだなぁ。ほかの人に「だれか好きな人でもいるの?」と聞かれてしまうくらいに

 

となります。学生時代にそんな経験をした人は多いかもしれませんね。

 

作者は平兼盛

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「しのぶれど」の作者である平兼盛

作者の平兼盛三十六歌仙の一人に選ばれるほどの和歌の名手です。

 

彼は光孝天皇のひ孫にあたり、後撰和歌集』時代の代表的な歌人でした。

 

出世競争では報われず、かろうじて貴族とよべる「従五位下上」にとどまりました。

 

彼の歌は後撰和歌集拾遺和歌集『後拾遺和歌集などに数多く採用されました。

 

兼盛の歌風は、比較的わかりやすく素直だと評されます。そのため、平安時代の古典に疎い現代人にとっても共感しやすいのかもしれません。

 

「しのぶれど」と「つつめども」の違い

この「しのぶれど」の歌には、初句が「つつめども」となっているものがあります。それは、鎌倉時代中期に書かれた『沙石集』です。

 

この中にある平兼盛壬生忠見が歌の優劣を競った「天徳内裏歌合」の記事で、兼盛の歌が「つつめども」と紹介されています。

 

「つつめども」も「しのぶれど」も、周囲に見えないように隠すという点では同じ意味になります。よって、どちらであっても意味に大差はありません。

 

ただ、勅撰和歌集である『拾遺和歌集』は1006年前後の成立とされていることから、もともとの歌は「しのぶれど」と考えるのが自然でしょう。

 

 

 披露されたのは「天徳内裏歌合」

 「しのぶれど」の歌が披露されたのは、村上天皇の時代にあたる天徳4年(960年)の「天徳内裏歌合」の時でした。

 

村上天皇を始め、上流貴族が勢ぞろいした豪華な歌会で、壬生忠見が詠んだ「恋すてふ」の歌と一騎打ちを演じます。

 天徳内裏歌合とは

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天徳内裏歌合が催された清涼殿

 天徳内裏歌合は、宇多天皇時代の「寛平后宮歌合」、鎌倉時代初期の「六百番歌合」などともに有名な歌会です。

 

披露される歌のお題は一か月前に告示され、歌人たちは歌合当日まで推敲を重ねました。

 

全部で20番の勝負で、勝敗の判定は判者である左大臣藤原実頼が決します。

 

補佐役には大納言の源高明がつきました。歌人たちは左右両陣営に分けられ、それぞれの歌を披露します。

 

ちなみに、右方の講師(歌を詠む人)は小説『陰陽師』で有名になった源博雅です。

 

左右両陣営には応援の女房達が割り振られ、左方は赤、右方は青をベースとした衣装で聞かざるなど、非常にきらびやかな演出がなされます。

 

こうして、村上天皇臨席のもと、天徳内裏歌合がスタートしました。

 

しのぶれど(つつめども)」VS「恋すてふ

 

歌合は、それぞれの歌を交互に披露して行われます。そして、優れている方を判者が決定して次の歌に進みました。

 

勝敗が決することもあれば、持といって引き分けになることもあります。歌合はどんどんすすみ、ついに最後の20番目の勝負となりました。

 

左方の講師は壬生忠見の歌を詠みます。

 

恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか

 

恋すてふ、というのは恋しているというのはという意味です。まだきは、もうすでにという意味です。

 

ですから、(あなたに)恋しているという私の名前が、すでに知られてしまった(噂になってしまった)なぁという訳になります。

 

人知れずこそは、人が知らないようにという意味で、思いそめは想い初め、つまり想い始めたばかりという意味になります。

 

ということで、人に知られないように、(あなたのことを)想い始めたばかりなのにという訳になります。

 

奇しくも、「しのぶれど」の歌と同じように秘めていた恋心があらわになった瞬間を詠んだ和歌となりました。

 

どちらの歌がよいか、左大臣実頼は判定がつかず、引き分けにしようとします。

 

ところが、村上天皇が納得しません。実頼はなんとしても勝負をつけるしかなくなりました。 

 

勝ったのは「しのぶれど」の歌

実頼が勝敗をつけかねていると、大納言の源高明がアドバイスします。

 

「帝(村上天皇)がしのぶれどの歌を口ずさんでいる」と教えてくれたのです。これで意を決した実頼は、右方を勝者と認定します。

 

こうして、歌合では「しのぶれど」が勝利しました。

 

敗れた壬生忠見は激しく落胆します。そして食が細くなり、ついには死んでしまったといいます。

 

『沙石集』では「歌ゆゑに命を失ふ事」というタイトルをつけ、天徳内裏歌合と壬生忠見の死のエピソードを紹介しました。 

まとめ

今回は百人一首に登場する「しのぶれど」の和歌について紹介しました。

 

この歌は、内に秘めた恋心を詠んだ名歌です。天徳内裏歌合では、同じく恋心を詠んだ壬生忠見の「恋すてふ」の歌と激しいつばぜり合いを演じました。

 

また、この歌は現代の作品にも影響を与えています。名探偵コナンや『ちはやふる』には「しのぶれど」の歌にちなんだエピソードが登場します。

 

千年たってまでリバイバルされるとは詠んだ平兼盛も思わなかったでしょうね。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

   

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