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『今昔物語』に登場する源博雅ってどんな人?「玄象の琵琶」のエピソードと登場人物・あらすじを紹介します!

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『今昔物語』は平安時代末期に成立したとみられる説話集で、全31巻・1040話が納められた大著です。

しかし、だれが書いたかわからないなど謎が多い書物でもあります。

今回は『今昔物語』の話の一つで、笛の名手である源博雅が登場する「玄象琵琶為鬼被取語(玄象の琵琶、鬼の為に取らるる語」をとりあげます。

◆この記事でわかること◆
・『今昔物語』とは何か
・「玄象の琵琶」の登場人物やあらすじ
定期テストで出題されるポイント
月岡芳年が描いた「朱雀門の月 博雅の三位」について
平安時代の文学に興味がある方は、こちらの記事もどうぞ!

『今昔物語』とは

和綴じの本
写真AC

『今昔物語』は12世紀前半頃に編集されたとされる説話文学です。

全31巻、1040話という大作です。

ちなみに、日本で最も古い説話文学集は平安時代前期に編集された『日本霊異記』です。

日本霊異記』に収録された物語について知りたい方は、こちらの記事もどうぞ!

kiboriguma.hatenadiary.jp

天竺(インド)・震旦(中国)・本朝(日本)の三部構成で、ほとんどの話が「今は昔」から始まることから『今昔物語』と名付けられました。

『今昔物語』は『宇治拾遺物語』や『古本説話集』・『宇治大納言物語』とかぶる話を収録していて、相互に似通っています。

芥川龍之介

芥川龍之介 - Wikipedia

作家の芥川龍之介は『今昔物語について』の中で、”「今昔物語」の芸術的生命は生々しさだけに終わっていない。brutality(野生)の美しさ”を激賞しています。

近現代に生きた芥川龍之介も『今昔物語』に強い影響を受けていたのでしょう。

芥川は『今昔物語』から『羅生門』と『鼻』を取り上げてよみがえらせていますが、そのストーリーは現代の目から見ても古臭さを感じません。

ちなみに、芥川は『宇治拾遺物語』の「絵仏師良秀」をもとにした『地獄変』という作品も書いています。

「絵仏師良秀」に興味がある方は、こちらの記事もどうぞ!

kiboriguma.hatenadiary.jp

「玄象の琵琶」とは

琵琶のイラスト
写真AC

「玄象の琵琶」は村上天皇遺愛の琵琶です。

唐から伝わったとされる名器で剣璽とともに歴代天皇に受け継がれる「累代御物」の一つです。

唐にわたった藤原貞敏が琵琶の名手である廉承武から譲り受けた琵琶の一つで、黒い象が描かれた居たため玄象と名付けられたとも言いますが、定かではありません。

玄象は楽器を弾くに値しない人物が奏でても鳴らないことや火災のときにひとりでに内裏から避難したことなどから、「心」をもった琵琶として伝えられてきました。

玄象に関する伝承について知りたい方は、成城大学のこちらのサイトをご覧ください。

admission.seijo.ac.jp

玄象についてのそのほかのエピソードも書いているのでお勧めです。

 

「玄象の琵琶」の登場人物

「玄象の琵琶」に登場するには源博雅村上天皇・鬼(鬼神)の3人です。あらすじに入る前に彼らのキャラクターを整理しましょう。

源博雅

源博雅

源博雅 - Wikipedia

源博雅みなもとのひろまさ)は、平安時代中期の公卿で醍醐天皇の孫にあたります。

はじめは皇族で博雅王と名乗っていましたが、源姓を与えられ臣下の籍に下ります。(臣籍降下

最終的に従三位まで登ったことから、博雅の三位ともよばれました。

博雅のように源姓を与えられて臣下となった血筋を「賜姓源氏」といいます。

雅楽に優れ、筝(そう)・琵琶・篳篥(ひちりき)・笛の名手として名をはせました

蝉丸法師のもとに通い詰めて琵琶の名曲「啄木」と「流泉」を伝授されたことでも知られています。

村上天皇が主催した天徳内裏歌合では読み方として参加するなど、村上天皇時代の宮廷行事に欠かすことができない人物でした。

天徳内裏歌合について知りたい方は、こちらの記事もどうぞ!

kiboriguma.hatenadiary.jp

村上天皇

村上天皇

村上天皇 - Wikipedia

第62代天皇(在位946年~967年)。

醍醐天皇の第14皇子で、先代の朱雀天皇の弟として生まれました。

949年に朱雀天皇時代から関白を務めた藤原忠平が死去すると、以後は摂政・関白を置かず、親政の形をとりました。

そのため、村上天皇の治世は醍醐天皇の「延喜の治」になぞらえて「天暦の治」と称されます

村上天皇の力が発揮されたのは芸術の分野でした。

勅撰和歌集の『後撰和歌集』の編纂を命じたり、天徳内裏歌合を主催したことから、和歌の振興に力を尽くしたと評されます。

雅楽にも精通しており、自ら琵琶や琴などの楽器を演奏しました。

玄象は村上天皇が愛用した琵琶であり、彼の芸術面での才能を後世に示す逸品ともなってきました

鬼(鬼神)

玄象の琵琶を宮中から持ち出した犯人。

鬼は琵琶を持ち出した後、朱雀大路を南に下った先にある羅城門の上で琵琶を奏でていました。

作中に鬼のセリフはありませんが、鬼が琵琶の演奏をしていることからも、博雅と同じく芸術センスのある鬼だったことが想像できます。

「玄象の琵琶」のあらすじ

昔々、村上天皇の時代に「玄象」という琵琶が突然なくなってしまった。

この琵琶は天皇家に伝わる大切な品物だったことから、村上天皇はとてもお嘆きになりました。

「このような大切な宝物を、自分の時代に無くしてしまうとは」

天皇がこのように悲しまれたのはもっともなことでした。

玄象の琵琶は盗んだからといって、ずっと保管できるような品物ではないことから、村上天皇に恨みを持つ人物が持ち去って、壊してしまったのではないかと思われていました。

しばらくして、夜に玄象の音が聞こえてきました。

この音を聞いたのが源博雅です。

博雅は管弦の道を究めた人物であり、玄象がなくなったことを人一倍嘆いていました。

その博雅が、ある夜に宮中の清涼殿で宿直の任務についていると、静かな夜のはずなのに、なくなったはずの玄象の音が聞こえてきます。

彼は宿直の姿格好で靴だけを履き、小舎人童を一人連れただけで音のする南の方角に向けて歩き出しました

宮殿の南門である朱雀門を出ても、音は南から聞こえてきます。

朱雀大路を南に下りながら、博雅は「これは、玄象を盗み出したものが楼観でひそかに弾いているのでは」と思いましたが、楼観についても、音は南から聞こえてきます。

音をたどって朱雀大路を南に歩いていた博雅は、ついに都の南門である羅城門にたどり着きました。

羅城門の下にたどり着くと、門の上から玄象の音が聞こえます。

博雅は驚きあきれながら「これは、人ではなく鬼が弾いているに違いない」と思いました。

玄象の琵琶の音はいったん止まって、また、続いている。

源博雅「これ(玄象)は誰がお弾きになっているのか。玄象の琵琶は数日来、行方が分からなくなり、天皇村上天皇)がお探しになっていたものです。」

「今宵、清涼殿で玄象の琵琶の音が南の方から聞こえたので、ここ(羅城門)にやってきました。」

博雅がこういうと、琵琶の演奏が止み、門の上から降りてくるものが見えました。

博雅は恐ろしく思って立ち退き、降りてくるものを見ると、それは縄で下におろされている玄象の琵琶でした。

博雅が恐れつつ、玄象の琵琶を手に取って宮中に引き返すと、村上天皇に報告して玄象の琵琶を返却しました。

村上天皇はとても感心して、「やっぱり鬼が持って行ったのか」とおっしゃった。

人(周りの貴族たち)は、博雅の行為をほめたたえました。

玄象の琵琶は、天皇家の宝物として今も存在している。

この琵琶はまるで生き物のようで、引手が下手だったり、手入れをしていなかったりすると腹を立てて鳴らないのです。

その機嫌の良し悪しがはっきりとわかるということだ。

内裏が火災に遭ったとき、だれも持ち出さないのに玄象の琵琶が自分で庭に出ていたという。

これはとても奇異なことだと伝えられています。

 

テストで出題されるポイント

「玄象の琵琶」で出題されるのはどのような部分でしょうか。

出題ポイントを3点まとめます。

「定めて鬼などの弾くこそあらめ」と思った理由

こんな夜中に、遠く離れた宮中まで玄象の音を響かせられるのは鬼以外にあり得ないと博雅が思ったから「定めて鬼などの弾くこそあらめ」と予想したのです。

このころ、羅城門は荒れ果てていました。

そのため、羅城門には人ならぬ鬼が住んでいると噂されていました。

ちなみに、芥川龍之介の「羅生門」のモデルになった門は羅城門であり、話の内容は『今昔物語』の内容をもとにしています。

「人皆博雅をなむ讃めける」の意味と理由

玄象の琵琶の音に気付いたのは博雅が一流の楽人で、玄象の音を聞き分けられたからです。

しかも、音をたどって羅城門まで行き、鬼から玄象の琵琶を返してもらうというのは常人には難しいことと考えられました。

それゆえ、博雅の才能と勇気を人々が褒めたと考えられます。

月岡芳年作「朱雀門の月 博雅三位」

朱雀門の月 博雅の三位」

源博雅 - Wikipedia

月岡芳年は幕末から明治にかけて活躍した浮世絵師です。

手前の貴族が源博雅、奥にいる人物は朱雀門にいたという鬼です。

博雅は相手が鬼と知らず、相手と向かい合って笛を吹きます。

そして、互いに笛を交換してなおも吹き続けました。

その様子を描いたのが「朱雀門の月 博雅の三位」です。

この絵画についてのエピソードは太田記念美術館の公式才知に詳しいので、そちらの記事もぜひご覧になってください。

otakinen-museum.note.jp

まとめ

今回は『今昔物語』の「玄象の琵琶」をとりあげました。

非常に不思議なエピソードであり、当時の人が抱いていた「鬼」についても知ることができる面白い作品です。

源博雅夢枕獏の『陰陽師』シリーズで主人公安倍晴明の相棒として登場し、映画でも活躍します。

高校で習って終わりにするのはちょっともったいない気がしますので、高校卒業後に『今昔物語』で関連作品を読んでみてはいかがでしょうか。

 

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