「人は、なぜデマに流されるのか?」
「三人市虎ってどんな意味?」
「デマに流されないようになりたい!」
この記事を読んでいる方はそのようにお考えかもしれません。
人がデマに流される理由は、情報の真偽を確かめず慌てて行動してしまうからです。
地震が発生した時、「必ずすぐに大きな地震が来る!」という根拠のない情報が流れた時も、確かめずにTwitterなどで情報を拡散する人が現れました。
人がいかに噂に弱いかを物語るのが故事成語の「三人市虎」です。
今回は『戦国策』から、「三人市虎(市に虎あり)」を取り上げ、災害や非常事態における人々の行動を考えます。
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三人市虎とは
時代は古代中国の春秋戦国時代。
出典は『孟子』。
魏は戦国の七雄の一つで、3代君主の恵王の時代には強大な力を誇っていました。
魏は別名「梁」ともよばれ、『孟子』では、梁の恵王として登場します。
孟子と恵王の対話でもっとも有名なのは「五十歩百歩」です。
それとは別の話として、今回の「三人市虎」のエピソードがあります。
「三人市虎」に登場するのは、恵王と龐葱(ほうそう)という人物。
龐葱は、魏の太子とともに、隣国である趙の都である邯鄲に人質としてついていくことになりました。
龐葱は恵王に対し、このように切り出します。
「今一人言市有虎、王信之乎?」(今、一人が市場に虎が現れたと言い出しました。王は信じますか?)
王曰、「否。」(王は「いいや、信じない」)といいました。
「二人言市有虎、王信之乎?」。(二人が、市場に虎が現れたと言ったら、王は信じますか?)
王曰、「寡人疑之矣。」。(王は「すこし、疑うだろう」)
「三人言市有虎、王信之乎?」。(三人が市場に虎が現れたと言ったら?)
王曰、「寡人信之矣。」。(王「信じるだろう」)
龐葱は、「夫市之無虎明矣、然而三人言而成虎。 今邯鄲去大梁也遠於市、而議臣者過於三人矣。 願王察之矣。」。
「市場に虎がいないというのは明らかなのに、三人が言えば虎がいたことになる。私は、今、簡単に向かって魏の都を去ります。私のことを議論する(悪く言う)ものは三人では聞かないでしょう。どうか、王様はそのことを忘れないでください。
予想通り、龐葱を悪く言うものが数多く現れました。
王は、結局、周囲の人の言うことを信じ、龐葱を魏に戻しませんでした。
同じことを何度も言われると、つい、人はその情報を信じてしまうということをわかりやすく物語っています。
熊本で起きた「ライオン脱走」の騒動
引用:百獣の王ライオン - No: 4890662|写真素材なら「写真AC」無料(フリー)ダウンロードOK
いわゆる「熊本地震」です。
2日後の4月16日にも大規模な地震が発生したため、記憶に残っている人も多いと思います。
一度目の地震の時、Twitterでこんな記事が出回りました。
「おいふざけんな、地震のせいで
うちの近くの動物園からライオン放たれたんだが
熊本」
この記事の下には、雄ライオンが市内を徘徊している写真が掲載されます。
このツイートは17,000回以上リツイートされ、熊本市動植物園には問い合わせの電話が100件以上かかってきたといいます。
もちろん、この情報はデマ。
後日、神奈川県に住む20歳の会社員の男性が逮捕されました。
容疑は、災害時にデマを流し業務妨害をしたという偽計業務妨害の疑いです。
調べに対し、容疑者の男性は「悪ふざけでやってしまった」と供述しました。
この事件に限らず、気軽に発信できるSNSは使う側にもリテラシーを要求しますので、要注意です。
文字だけではなく、写真まで添えられていたので高い信ぴょう性を持ってしまったのでしょう。
混乱時における情報分析で必要な姿勢
災害などの混乱時には、数多くの情報が飛び交います。
関東大震災の時には、朝鮮人が井戸に毒を投げ込んでいる、暴動を起こそうとしているといううわさが駆け巡り、多数の朝鮮人、および朝鮮人に間違われた日本人などが殺害されました。
東日本大震災の時には、「天皇陛下が京都に避難された」、「筑波大学によると、1時間後に茨城にも放射能が来る」などなど、数多くのデマが流れました。
今回も、新型コロナウイルスに関して様々な情報が流れています。
人々が情報を欲しがり、インターネットなどを検索すれば多くの偽情報にも行き当たる確率が上がります。
大事なのは、「批判的に見る」ことと、「情報の発信者に注意」することの2点。
「批判的に見る」というのは、調べられる可能な範囲で情報の信ぴょう性を自分で調べてみること。
例えば、新型コロナウイルスの影響でトイレットペーパーが不足する。
各種SNSで拡散したようですが、実際には十分備蓄があることは最新の報道で明らかなとおりです。
こうした情報は「拡散希望」などとタグづけられていることも多く、裏を取らずに無批判に拡散してしまうケースも見受けられました。
「情報の発信者に注意」というのは、その情報のもとになる話はどこから出ているかに着目するべきだということです。
ほとんどの怪情報は、「いつ、どこで、誰が、何を」といった肝心な部分がぼかされ、かつ、断定的に語られます。
胆振中部地震の際、一度大きな地震が来たら、もう一度、より大きな本震が来るという話をTwitterで見かけました。
確かに、熊本地震や安政地震の場合はそのようなことがみられました。
しかし、すべての地震が同じような経過をたどるわけではありません。
熊本地震のように、大きな地震が後から来るかもしれないから注意するべきだというとらえ方をするべき情報が、まったく違うニュアンスを帯びてしまっています。
非常時に即断すべきこと
災害時、すべてのことで考えて落ち着いて行動すればよいというわけではありません。
時には、即断しなければならないこともあります。
例えば、津波。
東日本大震災で分かるように、沿岸部で大地震に遭遇したら躊躇せずに高台に非難すべきです。
あるいは、火災。
火災で孤立しそうな場所にいるときは、速やかに脱出路を確保して逃れるべきです。
こうした場合は、即断即決が限りなります。
危急の時こそ、避難訓練などのことを思い出し、安全な脱出路を早急に確保しなければなりません。
そんな時は、命を守る行動を何にもまして取らなければならないと思います。
さいごに
東日本大震災、胆振中部地震、そして今回の新型コロナウイルス。
全てに共通することは、事態が進行中の時こそ、「怪情報」に注意しなければならないということです。
命の危険がないにもかかわらず、周りが慌てている時、少し距離を置いて冷静に判断することが必要なのではないでしょうか。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。