今回紹介するトレチャコフ美術館。
日本での知名度は、いまいちかもしれませんが、とても素晴らしい作品を数多く収蔵する名美術館です。
ロシアの名画が数多く収蔵されていますが、中でも個人的に好きな4枚の絵について、紹介したいと思います。
なお、世界史に興味がある方はこちらの記事もどうぞ!
トレチャコフ美術館とは
トレチャコフ美術館は19世紀の中頃に、モスクワの商人だったトレチャコフ兄弟が集めた美術ギャラリーからはじまりました。
開業以来、多くの美術品を集めることでロシアでも随一に美術館に成長します。
この美術館の一番の特徴は、ロシアのアーティストの作品を中心に展示が構成されていることです。
トレチャコフ兄弟は、「ロシアの芸術家によるロシア美術のための美術館」を目指して作品を集め、兄弟の死後もその方針に従って収蔵品を増やしました。
ロシア正教のイコン 「ウラジーミルの生神女」
ロシア正教会において、キリストや聖母マリアの像(聖像)をつくることは禁じられています。
それでも、キリストや聖母マリアの姿を見たいと中世の人々が望んだからでしょうか、イコンとよばれる聖画が描かれるようになりました。
トレチャコフ美術館所蔵の「ウラジーミルの生神女」は12世紀前半に描かれたものです。
13世紀になると、ロシアはモンゴルの騎馬軍団の侵攻を受けます。
キエフなど多くの町がモンゴル軍によって焼き払われる中、モスクワは炎上を免れることができました。
人々は「ウラジーミルの生神女」のイコンがモスクワを救ったと信じ、このイコンを心から大切にしたといいます。
「雷帝イワンと皇子イワン」
19世紀後半に活躍したロシアの画家、イリヤ・レーピンによる歴史画です。
レーピンはウクライナ第二の都市であるハリコフに生まれました。
ロシアでもいわくつきの皇帝である雷帝イワン。
彼には、誤って息子を殺したという史実がありました。
黒い服を着た老いた男が、血まみれの壮年の男の頭を抱えています。
雷帝ことイワン(イヴァン4世)は、強大な権力でロシアを統治し、反対者を次々と粛清しました。
皇太子イワンの妻エレナを打ち据えていた雷帝イワンを止めるため、皇太子イワンが間に割って入りました。
激高した雷帝は、息子を錫杖で撃ち殺してしまいます。
画面手前にあるのが、雷帝が息子を撃ち殺した錫杖ですね。
ロシアの歴史の闇の部分をよく表す絵画ではないでしょうか。
「忘れえぬ女」
イワン・クラムスコイ作の「忘れえぬ女」。
「見知らぬ女」という邦題もありますが、「忘れえぬ女」のほうがこの絵画を的確に表しているように感じます。
イワン・クラムスコイも19世紀半ばの画家でした。
小市民の家に生まれたイワン・クラムスコイは、当時ロシア画壇の主流だったイタリア風の絵画に反発。
ロシア帝国芸術アカデミーから追放されてしまいました。
木彫りグマは最初にこの絵を見た時、強い衝撃を受けました。
馬車に乗り、毛皮のコートに身を包んだ女性。
馬車の座席という高い位置にいるせいか、絵画を見る人を上から見下ろすような視線。
毛皮の細かなディテールや、馬車の座席の皮まで生々しく描く画家の画力。
まさに、「忘れえぬ女」となりました。
自宅で、このような形で名画を見られるというのも現代ならではという気がします。
絵画の技法や美術的な価値は、正直なところしっかりとわかっているわけではありません。
しかし、この女性の持つ何とも言えない強い印象は今でもしっかりと脳裏に焼き付いています。
さいごに
西洋絵画の中でも、ロシア絵画は日本人にとってまだまだなじみがないものかもしれません。
近くて遠いロシア。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。